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「大河、おまえ……つるつる……?」
「ちゃんと生えてるわボケがっ!」
「おう……っ……っ……っ……」
ごつっ、と。
竜児は至近距離からの大河の頭突きを食らった。瞬間、飛んだ意識は屋根を突き抜け、星またたく宇宙へと――
それは銀河系のどこか、というかここ。かなり、かなり近い時の物語。
竜児は左腕を、大河の頭の後ろにしいてやっていた。人の世に言う腕枕、添い寝状態である。大河はそれだけでめちゃめちゃはしゃいで、本能なのか、ぐりぐりとうなじを竜児の腕に擦りつけてマーキング。うっでま~くら、うっでま~くら♪ などと、即席の腕枕ソングまで歌いだす始末。
はてさて、ふむ。この元気な動物をどうしたものかと思った竜児は、キスをして大河のアホ歌を止めたのだった。ついでにちっこい耳の匂いも嗅いで、キスしてやった。
するとなんだか、大河のどこにもかしこにもキスしたくなった。竜児が触ってないところなどひとつも無いように、したくなった。大河の額にかかる髪にキスして、髪をかきわけて額にキスした。胸を隠す手をとって、雪色の指のひとつひとつを撫でた。引き寄せて、ひとつづつキスした。舐めて、しゃぶってやると、大河がまた腰を跳ねさせた。その顔を盗み見たら、どうしよどうしよ、と竜児にすがる時の表情をしていた。
すべてが愛しかった。
大河の首筋、耳の後ろのあたりに顔をうずめて思いっきり匂いを楽しんだ。キスして、宿り木のように細い鎖骨にキスした。胸の先の真珠だけでなく、大河はすべてが宝石なのだった。りゅうじ、りゅうじ……と、自分の名前を呼んでくれる宝物だった。
月の光を吸って自ら光るもののように燐光を放つ、大河の美しくなめらかな腹筋を撫で下ろしながら、俺の手がこんなものを触って良いのかと、竜児は思った。だが口にはしなかった。たぶん、きっと、良いのだ。なぜなら大河が許しているから。大河がそれを望んでいるから。ほかの何よりも、自分よりも大切なものを、ひとはたぶん真実と呼ぶのだ。だから大河が竜児の真実だった。大河がすべてだった。
ああ、それなのに。
大河が竜児の手をとって、「竜児、いいよ……私の、触って」……そう言って竜児の手を、ひときわふくらんで丘となっている大河の股間に導いた、その時に。なぜか竜児は言ってしまったのだ。
つるつる? と。そう記録にはある。
そして竜児は大河の頭突きを食らって、今に至る――
「もう一度その言葉を言ってみな……抜くぞ」
なにを抜くの!? と、宇宙帰りの竜児は痛む額をさすって怯えながらも、現にそうだと言いたくてたまらない。やっぱり大河を越える真実だってあるのだ。
「いや、だっておまえ……実際つ……」
「『つ』ぅうう~~? つ何だオルァ! 言ってみろいっ!」
「つ……いやなんていうか、すべすべで」
「同じじゃあああ――――いっっっ! もういい、やっぱ抜く」
「抜かないで!?」
「ちっ……惚れた弱みにつけこみやがってこの婚約者づれが……ほら、ちゃんと見てよ! 生えてるでしょ!?……ちゃんと見るな――――っっっ!」
「どっちなんだよ!?」
「……もう、ほらっ! 手、貸して!」
大河はまだ額をさすっていた竜児の手をひっつかみ、ここじゃいっとばかりに自分の恥丘へと押し付けて、そして左右にこするように導く。
……さわっ
「おうっ!?」
「ね!」
さっきまでの不機嫌はどこへやら、大河は笑顔を弾けさせる。
「おう確かに今なんか、さわっ、と。こりゃ少し手を浮かせた方が……」
そうして竜児は手のひらを、大河の恥丘からほんのわずかだけ浮かせて、左右に。
さわ……
さわ……
「大河……すまんっ……俺が間違っていたっ……!」
「クックック……わかればいいのよ……!」
さわ……
さわ……
「思い込みで……目だけでなく、手の感覚まで曇らせたっ! 俺は……やはり負け犬っ……!」
「そう、あんたは犬……犬の竜児は今日で死ぬの……だけどそれは蘇りのための死っ……!」
さわ……
さわ……
「死んで、蘇る……違うっ……俺はおまえに出逢うまでこそが犬っ……死んだも同然っ……!」
「竜児……嬉しいけど……なんかこのしゃべり方息苦しい……っ」
「おうそうだな、やめるか」
「うんっ」
手を動かせばさわさわと、たしかにちゃんと大河の毛は生えていた。見れば、丘に宿ったちいさな焔のよう。髪と同じ淡い色で、短いけれどちゃんと髪よりもちょっとだけ太く……太く?
竜児は不意に大河の前髪をかきあげる。大河の額は髪の生え際にも淡色の可愛い産毛がふわふわとたくさん。そう、猫っ毛の大河はかなりの産毛ちゃんなのだった。竜児はその産毛をなでなで。うむ、と頷く。
「なによ」
産毛デコ越しに睨みつける大河も無視して、竜児はふたたび大河の恥丘をさわさわ。うむ、と納得する。
「だからなんなのよっ!」
「おう大河、気にするな。俺はこれすっごく好きだぞ? 気に入った」
などと言っては、またさわさわ。
大河ははっと目を見開いて、朱を頬に散らして。次の瞬間、瞳を眇めてそっぽを向く。好きとか言えばおとなしくなると思って……などと、薔薇の唇も蕾にして突き出しぶつぶつ言う。そうかと思えば、すごく好きだ、って……と呟いて、にへらっと笑う。なんだかんだ言って結局、大河はちょっとおとなしくなる。
そんな大河に、竜児の双眸は狂乱の閃光をまき散らす。この娘こそ実は隠された魔術の奇跡、錬金術の奥義たる石の石、世界の命運を握る息づく鍵よ。そして今やこの娘の身も心もわが淫蕩の手管に堕ちたが、さていかに用いて神々の城を落としてくれようか……などと考える魔人になったわけではない。たんに愛しく眺めて、決意を固めようとしていただけだ。
「大河、触るぞ。脚、開いて」
「えっ!? あっ、ちょ、まっ……ど、どうぞ……っ」
大河はぴったり閉じていた内腿の力を緩めて膝を立てるや、わりとパカっと大開放。
チューリップが咲いた、パチンコ的な方の。頭の方から見るとそんなふうにしか見えない。大河の白いももまでもが華奢な美しさはさておき、なんだかとっても出そうな新台爆誕。
「いや、そんなに広げなくてもいいんじゃないか……?」
「えっ、あっ、違うの?!」
チューリップが閉じた。フィーバーは終わった……じゃねえ。
「おう、閉じてどうする……少しで、いいんじゃないか? 俺の手さえ入れば」
「りゅうじの手を入れるの~~~~っっっ!?」
今度は真っ赤になって大河がフィーバーしていた。
「バカっ、手が入る隙間を開けろってことだよ!」
「なーんだ……こんな感じ?」
拍子抜けしたように大河は言って、ふとももをそろっと広げる。おまえは俺にいったい何を期待しているんだ……。
「おう、そんなもんかな……」
アホなやりとりをしていても、実は竜児の心臓はのどから出そうなほど、高鳴り続けていた。ついにその時が……大河の秘部に触れる時が来たのだ。とはいえよくわからない初心者の竜児は、とりあえずそっと茂みに置いた中指を、そろそろと大河の身体の中心線に沿って、丘のむこうへと降ろしていく。
その指の腹が、ぷにゅっとした何かを。
「ひゃっ」
大河の声に思わず竜児は指を止めて顔を向ける。薔薇の唇を小波に結んでド緊張、耳まで真っ赤にした大河が竜児を見上げていた。
「……な、なんでもないっす! つつつ続きをどうぞす!」
「……おう」
竜児は微笑んで、大河に軽くキスしてやる。応えるように笑顔になった大河の潤んだ瞳を見ながら、意識を指先に集中させる。ここからでは大河の性器は見えない。ぷにゅ、ぷにゅ、と、その感触だけを頼りに慎重に指を進める。
大河の耳たぶか。いや、まぶたか。それとも唇……唇か。指先に集中するために目を眇め、いつしか視線を宙へとそらし、竜児は触れたことのある大河の部分と、そこの感触を脳内で比べていた。どこに似ている? 俺は、どこを触るようにしてここを触ればいい?
「竜児……かっこいい……」
「おう?」
大河の声に呼ばれて、ふたたび視線だけ向けると、大河は瞳を熱っぽくしてうっとり、陶然として竜児の顔を見上げていた。
こんなふうに大河にかっこいいなんて言われたのは初めてのような気がする。それがよりにもよってこんな時とは。けれど指先にかつてなく神経を集中させている今の竜児には、恥らったり嘆いたりする余裕さえ無かった。ふたたび探索を開始した、その時竜児の指の腹に。
ぷにゅの裏に、何かが、こりん、と。
「あっ!」
それは凄い信号で、竜児の神経を一気に奪い去る。それは大河が感じた声。甘く、竜児を中毒にする声。竜児は今度こそまじまじと大河の顔を見てしまう。
淡色の眉根をひそめて、長い睫毛を震わせて、少し驚いたように見開かれた星揺れる瞳は竜児をとらえて、もう新しい涙を用意して潤みを増している。桃色を散らした頬、神の細工になる鼻の下には、散ることのない薔薇の唇も震えて儚く。それを見た竜児は。
ただひたすらにその唇からその声が聴きたくなってたまらなくなる。
竜児は指先で、その裏にある、こりん、としたものを……大河のクリトリスを、こりん、こりん、と優しくくじる。
「あっ! あっ! あっ!」
大河の肢体は震えて、とうとう腰が跳ねる。唐突な動きに追いつかず、竜児の指は一気に大河の性器を端まで撫で下ろしてしまう。
「はあっ!」
それは濡れている。それは熱い。大河の口の中のようだと竜児は思う。一度に竜児の指が濡れそぼったのがわかる。指がそれに触ることを欲しているのを強く感じる。大河の性器は全体でも竜児の中指一本にも満たないちいささだった。
「大河……」
愛しい名を、なぜ呟いたのかすらわからない。竜児はぬめりを帯びた中指を硬くして、もう一度大河のクリトリスをくじりだす。手のひらを茂る恥丘に重ね、跳ねる腰を男の力で押さえつける。
「りゅうじっ……りゅうじぃ……っ」
喘ぐ大河が名前を呼ぶ。切なくて甘い響き。
「……おまえはぜんぶ甘いんだな、大河」
「そこだめ、りゅうじっ、そこばっかり、だめっ……そこ……そこっ!」
身をよじる大河を、竜児は枕にしていた腕で抱きしめるようにして押さえつける。鞘の中の豆のように大河のクリトリスが逃げるのを、指先を硬くして追いかける。逃がさねえ、と思う。
「おまえはぜんぶ、お砂糖みたいだ、大河……」
「と、とけちゃうっ! とけちゃうよ……っ!」
大河は額にまで大粒の汗をかいて、産毛まで濡らして、哀願する。
「そこ、そんなに……そこ、そんなにっ! あーっ! し、したら、だめ……私、だめに、なる、う……っ!」
立てた膝も震わせて、大河が足の指先をシーツに突き立てる。伸ばした竜児の右腕に、ぎゅっと痛いほどにしがみついてくる。汗で濡れた額を汗で濡れた竜児の胸板にこすりつけるようにして、顔をうずめる。
「イキそうか? 大河」
大河はびくんと震えて、コクコクコクと何度もうなずく。
「イっちゃえ、大河。イっちゃえ……イけ」
囁かれた竜児の甘くひどい命令に、驚いたように大河は顔をあげる。切なそうに、恨めしそうに竜児を睨んで、けれど大河は命じられたままに、
「りゅう、じ、ひど……っ! あ……い……く……っ!!」
きつい絶頂を迎えてしまう。股間がひときわ強く跳ね、竜児の手を突き上げる。竜児の、男の力でも押さえきれない。
ぬめる竜児の中指がその時、事故のようにして大河の性器の中にすべりこんだ。驚いて指を引き抜こうとした竜児を――
危ない! 転びかけた大河を助ける時のような直感が襲う。竜児は思わず、挿入した指と手のひらで大河の恥丘を包むように掴んでいた。跳ねる腰の動きとズレないようにしっかりとあわせる。
「はぁあっ!」
驚きか、喘ぎか、大河がひときわ高く吐息する。煌く瞳を見開いて、震える薔薇の唇で竜児に言い募る。
「りゅ、りゅう、じ……わ、私、イって……イってる、よ……っ?」
「お、おう……わかってる」
身体を痙攣が襲う度に、竜児の指を熱く、きつく、大河は締めつけてくる。
「い、イってるのに……っ りゅうじ……指……ゆびっ 挿して……つかん、で……っ」
「な、なんだ? どっちだ? 挿していた方がいいのか? 抜いた方がいいのか?」
「そ、こ……つかんじゃ……あうっ! す、すごい……っ! す、すご……っ!」
腕の中の大河の肢体を走る力の強さに竜児は驚く。腹筋を浮き出るほどに硬く締めて、押さえる竜児の手を恥丘で何度も突き上げては、あう! あう! と大河は甘く叫ぶ。竜児の腕にしがみついて、ガクガクと震えて顔を押し付ける。
「りゅ、りゅ、じ……」
「な、なんだ、大河? ど、どうして欲しい? 俺に、どうして?」
「りゅう、じ……あの、ね……あの……ま、また、イク……イクの……き、来ちゃう……っ!」
「イくのか? く、来るのか? どどど、どっちだ?! てか、抜いた方がいいんだな? 抜くぞ?!」
「い、いま抜いちゃ、だめっっっ!!」
遅かった。予測不能に跳ねる大河の腰の動きを避けて、余計なところに指を突き立てて傷つけないように、竜児は一気に大河の股間から手を離した。ぬるんと一息に抜ける指が大河の最後を刺激してしまう。
「い……くっ!!」
押さえるものを無くした大河の腰が空を突き上げ。その瞬間。
大河のあそこから、何かが、ぷしゃっ、と。
「おう!?」
「……っ! ……っ!」
おしっこなのかなんなのか、大河は腰を突き上げるたび、二度、三度と、透明な液体を噴き出させて――
竜児は知ってしまった。
大河は、ただ「派手に」イく娘なだけではなくて、何度もイく娘で、しかもイきすぎてちょっとおもらしまでしてしまう娘なのだ。
これはやばい、と竜児は思った。誰にもこのことは……特に、他の男には知られてはいけない、と。
やたらと小さいけれど、大河はこんなに綺麗で、可愛くて。その上さらに、
「はうっ! はうっ!」
大河はこんなに可愛い声で鳴いて、こんなにえっちなカラダなのだった。そのことだけでも知れば、男ならだれでも大河を欲しがるに違いない。奪いたくなるに違いない。竜児が見つけた女は、竜児を見つけてくれた女は、そんなとんでもない宝玉のような女なのだ。
竜児は大河を抱きしめる。目が眩んだ者のように瞳をきつく閉じる。
しかもこの宝玉はその中に、外に漏れ出る輝きよりも輝くものを――宝の宝、秘密の秘密を、この世の誰よりも竜児だけが知っているものを、竜児がこの世の誰よりもそれをわかりたいと願うものを、つまりは大河の心を、宿しているのだ。
決して離すまい、と竜児は誓う。
誰にも渡さねえ、と心に叫ぶ。
「りゅ、りゅう、じ……っ」
大河が俺を呼んでいる。竜児が目を開けると、そこには。
大河は産毛も濡らした顔を上げて、自ら光るもののような煌きを宿した瞳を、痙攣にさらわれまいと抗うように必死に竜児に向けていた。なんて愛しい女。
竜児は今まさに知った真実を、抱いた決意を伝えたくて。どこから話したものかと迷って。
竜児はつい、とりあえず最初から話してしまう。
「大河……おまえはエロすぎる……」
「……! ひどっ!」
(この章おわり、10章につづく)
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