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本館SANDWORKS Lab.のSS活動用分館■とらドラ!の大河×竜児SSなど。甘々コメディとラブエロとがあるので注意■本館には右下のリンクからどうぞ
27 . November
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19 . July
マリみてSS活動時代の仲良しSS作家さんたちと飲みに行って、とらドラ!を布教しまくってきたせーぶるです(u ・ω・)果報は寝て待て

さて、「並び寝る」ですが。前回のエントリで「誰か読んでるの?」なんて甘えた事を言ってみたら、「読んでるぞオラオラオラオラオラオラオラァァァァァ――――――ッッッ!!」とばかり、拍手を叩き込んで下さった方がいました。朝の8時台に160票以上……スクリプト書きましたか?(u ・ω・)愛をありがとう。攻撃だけはしないで下さい。

指先にお住まいの大河と竜児と三人で泣いたり笑ったりアレしたりしながら、とうとう13章まで伸びてしまいました。これほど長くても内容を水増ししているわけでもなく、テンションが上がり続けていっているというのが我ながら感心しています。自分で言ってりゃ世話ありません。

それでは、「竜虎並び寝る」 13章、続きからどうぞ。ラブエロ注意

   13
 
「いだあっ!」
「いでえっ!」
 ふたりとも、同時に叫んでいた。それで竜児の動きも止まるのだから、やっぱり言葉は必要なのだ。
 驚いたのは、むしろ大河の方。
「えっ、竜児も痛いの?」
「いや、痛い、わけねえよな。何で俺、痛かったんだ……?」
「はあ? 何言ってるの? 意味わかんない。痛いから痛いって言ったんでしょ?」
「いや、でも、別にこいつが痛んだわけじゃねえし……」
 と、竜児はゴムに包まれた自分の勃起を見下ろす。
「ごたくはもういいわ。あんたが痛かろうと私が痛かろうと、そんなの我慢あるのみ。さあ来い犬っころ!」
 カモーン、なんて猪木ばりに両手で誘い、大河は威勢も良く竜児を犬呼ばわりする。とてもムードなんてあったものではない大河は、でも。
 痛みもあって涙目なのだ。恥もあって真っ赤なのだ。猪木だろうと犬呼ばわりされようと、もう竜児にはぜんぶひっくるめて大河が愛しくてたまらない。ムードなんか要らなかった。いや、これでムードは満点なのだった。
 ただ、なかなか、上手く挿入できないだけで。
「大河、脚、ひろげるぞ」
「お、オッケー!」
 竜児の目の前で仰向けになって、ふとんに広がった淡色の髪の小さな海原に浮かんだ大河は、恥ずかしさからか自然と膝を胸に寄せて折りたたんでしまっていた両脚を、ふたたび竜児の手にゆだねる。
 強く握れば壊れてしまうんじゃないかと怖くなる、白くて細い足首だった。竜児の手首ほどの太さもない、その左右の足首をそれぞれの手に握って、竜児は大河の脚を開く。眼下に、大河のミルク色の股間が、恥丘の淡色の茂みが、舌の色に似た桜色の秘唇が、あらわになる。
 ひとつ甘やかに吐息して、大河は竜児から瞳をそらす。
 最初に大河の裸身を見たときもそうだったと、今夜のことなのに遠いことのように竜児は思い出す。今はもう、なぜ大河が目をそらしたのかがわかる。恥ずかしくてたまらないから、ときめいてたまらないから、大河はそうするのだ。竜児を翻弄していた最初から、すでに大河は可愛かったと知ってしまう。だから竜児は、つい、
「可愛いよ、大河……」
 こぼしてしまう。大河を震えさせてしまう。
「も、もういいから……っ」
 大河は睨んでくるけれど、愛しくてたまらなくなる。
 竜児はふたたび大河の股間に視線を落として、大河の両脚を押し広げて。そして。
 そして、やはり戸惑う。
 繰り返し鍛えたはずのおのれの妄想も及ばぬところに、竜児は来てしまっていた。だから。
 どうすればいいのかが、よくわからない。
 たとえば、今。挿入するためには両手で両脚を広げていなければならないのに、挿入するためにはさらに手で自分の勃起を支えなければならない。どう考えても、手がもう一本必要ではないか。手が三本要る……そんな馬鹿な話はない。きっとやり方があるのだ。しかし。
 どうしてこんな大事なことを、大人たちはちゃんと教えてくれなかったのかと竜児は苛立つ。大河なのだから――大切な、誰よりも大切な女なのだから、初めから大事に扱いたいに決まっているというのに、誰もそのやり方を、竜児には教えてくれなかった。あるのは曖昧な教育と、猥雑な画像や動画、商品のようなものばかり。この先、大学に行ったところで、そしてその先であっても、それはきっと変わらないような気がする。無知な清い身体でいろと言う。そしてそんなふたりならば、痛めあうほかないとでもいうのか。
 無知な清い身体同士だから、ふたりで見つけるしかない。
 苛立ちを優しさに変える、魔法の力をふるうしかない。
「大河、左脚、持っててくれるか? 自分で」
「う、うん……」
 竜児は右手でつかんでいたミルク色の大河の脚をゆだねて、大河に膝をかかえさせて。そうして自由になった右手で、竜児は自分の勃起をつかむ。快感など無く、膝でいざって、ゴムで包まれた勃起の先端を大河の股間の秘めた花唇にあてがう。あてがえばもう、秘唇は勃起の先に隠れてまったく見えなくなる。大河の身体がびくりと震える。そして、
「いくよ、大河」
「うんっ……」
 ぐっ、と。
「痛っ」
「いてっ」
 ほぼ同時に小さく叫んで、ふたりは顔を見合わせる。
「また……?」
 それだけで、大河の言いたいことは竜児に充分伝わった。
 また、あんたも痛かったの? と。
 そして、今度は竜児も見つけたことがあった。
「わかった、大河。どうも、おまえが痛いと、俺も痛いらしい」
「……なに、それ……?」
「だから、おまえが痛むと、駄目なんだよ俺。どこがって、わけじゃねえ……強いて言えば、胸のあたりかどっかが。ぎゅっとなる。しめつけられたみたいに、なる」
「そんな……そんなこと、嘘でしょ……?」
「ところが嘘じゃねえんだ。なんだろうな? 思い出した。たまにしか無いからか。だけど、もう、だいぶ前から、俺はおまえが痛いと駄目なんだ……それがわかると、駄目なんだよ……」
 そしてそれが、俺には嬉しいんだ……とは、竜児は口にはしなかった。
 大河が、静かに泣き出したからだった。笑っているような、困っているような、そんな顔をして。竜児を見つめて、鼻をすすりながら言う。
「もう、やだ……やだよ竜児……あんた変。今日、あんた、おかしいよ……やめてよ……なんで、なんでそんな、素敵なことばっかり言うの……?」
「大河……」
「……言ったでしょ? 私、もう、落ちてるって……ずっと、ずっと前に、私もう落ちてたって。だから、もう、口説かなくていいんだってば……誘惑、しないでよ……私、おかしくなっちゃう」
「口説いてなんかいねえぞ、ただの事実だ」
「ほら……っ! もーっ! ……はあ、だめだ。あんたバカなんだった。思い出した。何言っても無駄だ。そーだった、うん。竜児ってバカなんだった」
 バカバカ、と繰り返して、大河は空いているちいさな右手の甲で涙をぬぐうものだから、
「素敵とか、バカとか。おまえ滅茶苦茶だぞ、言ってること」
 つい、竜児は薄い唇を尖らせてしまう。
 いつの間にか泣き止んでいた大河は、まだ濡れている瞳の星を縮めて、そんな竜児に微笑みかける。
「そんな顔しないでよ。怒んないで、ね? 竜児のそんなとこも、ぜんぶ、私、気に入ってるんだからさ」
 なんて言って、大河はひと瞬き、薔薇色の唇を蕾に変えて、ちゅっ、とキスまで飛ばしてみせるのだ。
「っ!? バカっ!」
 焦ってしまう。竜児は耳まで赤くしてしまう。
「ふふん、おあいにくさま。私はバカじゃないね。まあ……そんなこと、いいからさ……ねぇ、竜児、とどめをさしてよ、私に」
 偉そうに顎をしゃくってみせてから、大河はそんなことを言って、また竜児に耳を疑わせる。
「おう、と、とどめ!?」
「そ、とどめ。私がおかしくなっちゃう前に……もう、おかしくなってるんだけど……とどめ、さしてよ。ちょっとくらい痛いのなんて、我慢するから。だから竜児のを、ね? こう、おりゃっ! と」
「おりゃっ……と!?」
「そう、ずぶっ! と」
「ず、ずぶっ……と!?」
「そう。そんな風にして。私に、挿して……ね、つながろ? 私、つながりたいの、竜児と。すごく、すごく、すっごくすっごくすっごく、つながりたいの。もう、それが夢みたいになってるの……ううん、夢なの、竜児。だからお願い、叶えて? とどめをさして? ねぇ、お願い。お願いなの、竜児……私と……つながって、下さい……」
 下さい……と、明るかった声音もやがて切なくして、儚くして。大河のそれは確かにお願いだった。
 大河にお願いされたことなら、竜児には何度もあった。重く、切々としたお願いだって、その中にはあった。しかし、下さい、なんて……と竜児は驚く。
 それは初めてのはずだった。そんな言葉を、大河が口にしたのは。大河のことだから、それは最後なのかもしれなかった。こんな大河の瞳は見たことがないと感じた。一生に一度の、お願いなのかもしれなかった。
 とてもそんな途方もないことに、返す言葉など竜児に用意があるはずもなかった。この世のどこにも、そんな言葉はないように竜児には思えた。もちろん。
 答えは、決まっていたにせよ。
 おう、とだけ、竜児は言ったのかもしれない。それは口ぐせ。もしそれが口をついて出ていたのだとしら、それはきっと大河のために――きっと大河に応えるためだけに、竜児を作った者が竜児にしつらえておいてくれた言葉のはずだった。だから、きっと。
 仕掛けが働いてくれたのだろう、大河は満足そうに微笑むのだ。
 だから竜児も、微笑みを返すことができる。頷いてみせる。
 もう一度、竜児は手にとった自分の勃起の先を大河の秘唇にあてがう。大河はやはり震えて、息を大きく吸い込む。けれど。
 今度は、竜児は腰を進めない。進めずに、ゴムに包まれた勃起の先端で、大河の秘唇を優しく割るようにして、そこを優しくこすりはじめる。
 大河は痛まない。
「……えっ、えっ? 何……っ?」
 かわりに大河は甘い驚きの声をあげて、腰を跳ねさせる。
 大河の中を隠す泉から湧き出た、白い蜜をすくうようにして勃起の先に絡めて。むしろからめるために、竜児は勃起の先端で優しく秘唇を縦に舐め上げて、舐め下ろす。秘唇の上の方の敏感なところがくじられて、大河が腰を跳ねさせても、丹念にする。
「あっ! あっ! りゅうじっ、ひどいっ! そんなの、そんなの……っ! とどめ、さしてくれるって、言ったのに……っ!」
 大河の抗議も甘やかな声に、中毒になってしまった竜児は脳髄を痺れさせる。手の中で勃起が漲るのを感じる。
「ゴムが、引っかかるんだ、濡れてないと……きっと、たぶん。それでおまえが痛むんだ」
「そ……っ。う、うん……わかった」
 目を伏せて作業を眺める竜児の視界の端で、愛撫の意図を理解した大河が睨みを解くのが見える。
「角度も、あるのかもしれない」
 喘ぐのは止められずに、大河は訊きかえす。
「はっ、はっ……かく、ど……?」
「ああ、つまり……挿入する、角度だ。それが、わからねえ。誰も教えちゃくれなかった。俺が、自分で、見つけるしかねえ」
 言いながら、苛立ちが蘇るのを竜児は止めることができない。
「……私たちで、でしょ?」
 大河の言葉にはっとして、竜児は顔を上げる。苛立ちが刻んでいた眉根のひそみが、散って消えていくのを竜児は感じる。大河の言葉が沁みたからだった。大河の表情を見たからだった。
 竜児はもちろん一人ではなかった。そこには、傍には大河がいるのだった。大河は穏やかな顔をして竜児を見上げてくれていた。羞恥と快感に頬を桃に染めて、震えていたとしても、それは大河が竜児を信じてくれている顔、信じてゆだねてくれている顔。竜児の知っている、ありがたい表情だった。
 俺の方が、何度もなんども好きになってしまうよ、と、竜児は思う。
「腰、もっと上げたほうがいいのかな……?」
「えっ、おう、そうか。まあ、そうか、そうだな……」
 大河の尻はまだ敷ぶとんに近い低い位置にあった。だから大河の言うとおり、上げる以外にそこの角度を変える方向はないのだけれど。
「ふんっ」
 と大河は鼻息一発、薔薇の唇もへの字にして、腹筋を搾って宙にかがむように腰を折り上げる。
「おう……上げすぎ上げすぎ」
 途端に空へと晒された大河の股間の、今まで尻肉の内側に隠されていた秘唇の下向こうまで見えたような気がして、今さらながら目のやり場に困った竜児は、視線を宙にさまよわせてしまう。
「そう? じゃあ、こんくらい……?」
 大河は溜めた息をそろそろと吐きながら、尻を微妙な位置まで降ろして。さすがというべきか、ビタリと止めてみせる。
「むむ……これ結構キツイ……腹筋使うよね……」
「これでどうだ?」
 竜児は掴んでいた大河の右足首を、少し大河の頭の方に押すようにする。思い出したように、大河が脚に力を込めたのがわかる。
「おお……楽かも……」
 大河のそんな声に、まるで組体操でもしているような気持ちになって、つい竜児は笑ってしまって。それを大河に咎められる。
「なによ。笑うんじゃないよ」
「……いや。楽しくってさ。楽しくなっちまって、つい」
「楽しい……?」
 まだ、大河は瞳を眇めてくる。
「うん、楽しい……おまえといると楽しいよ、大河。いつでも……今でも」
 それは本当に竜児が思ったことで。思っていることで。そして、間違った言い訳では無かったようだった。
 反応も早く、大河は眇目も笑みの瞳に変えて、ちょっと鼻の下を伸ばすように唇も小波に結んで。照れているのか、ちょっと挙動不審に頭を揺らして、
「わ、私もっ……私も、竜児といると楽しいよ? 今だって……いつだって……っ」
 竜児を見つめて、なにか頑張るようにして言う。本当に頑張ったのかもしれなかった。なにせこいつは、俺の好きなひとは――大河は素直じゃない奴なのだ。だからいっそう、稀に見せてくれる素直さが、嬉しくもあるのだけど。
 その、嬉しさを携えるようにして、竜児は、
「よし、じゃあ、またやるぞ?」
「うん、さあ来いっ」
 勃起を秘唇にあてがった。
 もう一度、こすりつけるつもりだったのだ。大河も、そうだと思って返事をしたはずだった。なのに。
 魔法は、いつふるわれていたのだろう。
 無知の苛立ちを、ふたりで優しさに変える魔法は、いつ。
「おう……」
「は……っ」
 入って、いた。
 滑らかに、ひっかかりもなく。勃起の先は大河の秘唇を丸く押し広げ、その、中に埋まっていた。未知の感触。竜児は見た。むしろ見て確認できたのだった。顔を跳ね上げて大河を見た。
 はっ、はっ、と、薔薇色の唇をせいいっぱい大きく開けて、子犬のように細かい息を吐きながら。驚きに見開かれた大きな瞳の星も散らして、大河もまた、竜児を見返しているのだった。大河にはわかるのかと、竜児は思う。見ることなく、感覚で、大河には入ったことがわかるのか。
 竜児を見返して、大河は、細かく首を横に振る。
 伝わる。わかる。
 けれど、竜児は訊かないではいられない。
「痛く、ないか?」
「うん……痛く、ないよ……キツいみたい、だけど……痛くない……」
「そうか……よかった」
「入って、るの?」
 子犬のように喘ぎながら、大河は訊き返してくる。
「ああ、入った」
「……やったね」
 なんて、大河は言う。微笑む。嬉しいな、なんて言う。
 竜児もまた喜びながら、だが、しかし。
 なぜなんだろう、と思わずにはいられない。さっきまでの苦労が嘘のようだった。あまりに滑らかに挿入に成功していた。ゴムを濡らしたせいか、角度を変えたせいなのか。ふたりが交わした穏やかなやりとりで、勃起の漲りが少し緩んでいたことも、幸いしているのかもしれなかった。
 ともあれ、これを失うわけにはいかない。
「じゃあ、いくよ」
 言って、竜児は大河のうなずきを見て確認、腰を進める。
「はっ!」
 跳ねた大河の声に、竜児はわかった。今度は痛いのだ。腰を止める。戻そうと
「駄目っ!!」
 するのを、竜児を驚かせてすべての動きを止めるほどに、鋭い声で大河が叱咤する。
「駄目、駄目、駄目駄目駄目駄目駄目駄目っ! 駄目よっ! やめちゃ駄目っ!!」
 叱る声が、息がさえもが、中に埋まった竜児をキツく締めつけてくる。それはただの事実の感触。快感は無かった。竜児は大河の叱咤に意識を集中していた。叱咤を充分に心に沁み込ませながら、身体の不思議に馳せられる思いもあることを竜児は感じる。
「大河……」
「やめちゃ駄目……竜児、やめないで。やめたら、私、許さない」
 燃えるような、瞳だった。
 真剣、という。
 真剣となった大河の瞳は、だが、怖くはなく、ただ、絶対の覚悟となって竜児の目から心までをも貫く。折り返されて、竜児は自分の目にも真剣が宿るのを感じる。
「わかった。やめない」
 言って、なんて女だと竜児は舌を巻く。大きな瞳に光る真剣を宿したまま、大河は薔薇の唇を端に引いて笑ってみせるのだ。そして、こんなことまで言ってくる。
「よし、それでこそ私の竜児。さあ、言って。私はどうすればいい?」
「……そうだな、なるべく力を抜いてくれ。息を吐くと、いいと思う」
「わかった」
 言って、大河はすっと息を吸って、はあ……っ、と吐いてみせる。
「よし、いく」
 とだけ竜児は言って、勃起の先に意識を集中する。指を進めた時のことを思い出して、かすかな弛緩をうかがう、けれど。そこはひたすらにキツく狭く、そんな弛緩などは気配も見えない。
 迷いをふりはらい、竜児はむしろ大河が息を吐くのを読んで、そのタイミングで。
 押し進める。
「はっ! はっ!」
 伝わる。痛みがある。竜児は歯を食いしばってこらえる。大河にもらった真剣で、弱る心を斬り伏せる。鼓動は高鳴り、鼻息を荒くする。
「大河……息を吐いて……」
 出したためしの無い汗が竜児の額に結ぶ。すぐに雫となって、顎まで滑って大河の白い腹に落ちる。竜児は固唾を呑んで、大河が息を吐くのを読んで。
 また進める。
「はっ!」
 大河の吐息が跳ねる。痛い。辛い。
 おのれが杭か、針になったように竜児は感じる。虫を……美しい蝶と刺し止めるピンに。一切のロマンも無く、ただ酷薄な認識として、そう感じてしまう。
 そこは狭い。そこは熱い。大河の中に挿し込んだおのれから、幻のように大河の鼓動すら感じられるような気がする。幻ではないのかもしれないと、大河の小さな腹を見る。心臓までわずか20センチもあるか知れない。それを刺し止める……馬鹿なと首を振る。怖気づきそうになるのを真剣で払って、返した刀を大河に届ける優しい声に変えてみせる。
「息を吐いて……大河……息を吐いて」
「はっ、は……りう゛じ……」
 痛む声とも違う、吐きしぼるような妙な声。見れば、
「……た、大河?」
 はたして大河は顔面蒼白。いっそ青いほどで、
「も゛、も゛う゛、はげない゛……」
 もう、ハゲない……もう、吐けない、か?
「馬鹿っ! 吸っていいんだ! 吸え吸え! 息しろ!」
「い゛い゛の゛? ……っすー……うう……ううう……うううううう」
「吸ったら……吐くんだぞ? 忘れるなよ? 吐けよ?」
 薄い胸も小鳩のように膨らませて、大河は竜児を見てコクコクと。
「……うっ。っんはああああ~~~~っっっ! すうっっっ、はーっ! ふいーっ。はぁ……助かったんだぜ、竜児……ぐっじょぶ……」
 助けても、グッジョブも、ねえだろと。しかし。
 こいつは、ほんとに……竜児は思わずにはいられない。こいつは、ほんとに、こいつは、ほんとに、こいつは、ほんとに……。吹き出そうになる笑いを、折れた真剣の最後の仕事とばかり、なんとか斬り伏せて。切られた欠片を微笑みにして。
「よく、頑張ったな、大河」
 言ってやる。大河がどれだけお馬鹿でも、それは本当なのだから。
 だから竜児は大河を撫でてやりたい。右手を勃起から離し、さしのべて。なんともいえないいい笑顔でニコニコしている大河が、さあ撫でれ!とばかりに、あごを引いてつむじをその手に寄せるの見て、竜児は気づいた。
「あ、やべ……手……」
 気づいて、右手のひらを見る。勃起はつかんでいたけれど、見た目に汚れは無い。見た目、には。
「汚れちゃ、いねえけど」
「じゃあ気にすんな。気にしない。許可する。さあ、この頭を撫でるがいい! 撫でろ!」
「はいはい……」
 お馬鹿な上に偉そうで、でも痛みに耐えてよく頑張った大河の頭を、竜児だって感動して、撫でてやるのだ。
「返事は一回っ!」
 大河は叱るのも上機嫌な声音。
「おう……はい」
 そう叱られても、気をつけて返事しないと、なぜかはいはいと繰り返してしまいそうになるのを、竜児はなんとか一回に収める。そして撫でなで。
「よしよし、いい子だ。いい子だな、大河は」
「きゅーん……」
 なんと聞いたことのない声まで出してくる。本当に可愛いのだった。
 ほどなく大河は顔を上げて、竜児が撫でるにはその頭は遠くなる。満足するにはまだ早かったんじゃないのかというタイミングで。すると大河は、
「あのね竜児、ご褒美、足りないと思うの」
 子どものようにあどけない顔を竜児に向けて、そんなことを言う。
「おう……」
「あのね竜児、ちゅうとかあるべきだと思うの、ご褒美」
 頬すら赤らめず、ひたすらにあどけなく、大河はそんな恥ずかしいおねだりを平気でしてくる。
「お、おう……ちゅう……」
 赤面が移されたのか、かわりに竜児が倍は赤くなる。ついでに馬鹿も移されたのか、ちゅう……なんて復唱までする。
「ねぇ竜児、お願い」
 桜色の舌先をぺろと出して、乾いた唇を潤して薔薇の艶めきを取り戻させて、大河は準備万端よ、と。
 思わず固唾を呑んで、くやしく心臓をドキドキさせながら。それでも竜児は大事なことを確認しなければと思う。
 竜児の股間を、そしてそれとつながった大河の股間を、見る。
 勃起は半分ほども、埋まっただろうか。
 指の長さほどは、入っているようだった。
 大河の奥がどこまでなのかも、知れない。ひとまずこんなところではないかと、竜児も思う。
 幸いなことかもしれない。小さな大河の狭くてキツいそこは、それでも――勃起の先半分ほどでも、がっちりホールドしてくれているように感じる。なんというか、結合部さえこの位置で維持できれば、すぐに抜けるものでもないように、竜児にも思われた。
 この位置、この角度で、維持できれば。
「大河、枕、取ってくれ」
「へっ? ……枕?」
 いいかげんしびれでも切らしていたのか、薔薇の唇も蕾にして突き出し、うちゅ~っ、とでもいうように、アピールタイムに入りかけていた大河は、まったく予期していなかったのだろう、竜児の依頼に一瞬、目を白黒させる。復唱してようやくわかったのか、これ? と自分の頭にしいた枕を右手で逆手ぎみに掴んでみせる。
「いや、隣の俺の……は、無理か、逆か。いや、大河、こっちの脚を持っててくれ、右手で。そう。それで、かわりに左の脚を俺が持つから、手を離して……そう。その左手で、届くか? 左の、俺の方の枕」
 ふたりでなにをやってんだか、だが、竜児が言ったとおりのことをふたりでやっているのである。
 ていていっ、と、股間を竜児に縫いとめられた大河は、左手を伸ばして隣のふとんの枕を掴もうとする。つかまえる。
「届いたっ!」
「よし……ああまて! ゆっくりだ、ゆっくり俺に渡してくれ……」
 細腕とも思われぬ力で、この枕であんたをぶっ叩いたろかいっ、的な速度で持ち上がった枕の勢いを、竜児は声で制して、自分の左手で譲り受ける。ふたりの股間が微妙につながっている今は、叩かれてはマズイのである。もちろん、普段だって叩かれたくは無いのだが。
「大河、こっちの脚も持っててくれ。そう、両手で、両脚とも……」
 いたって真剣ではあるのだ。あるのだが、大河のその格好を見て、連想の記憶というやつ、竜児の脳裏をやらしい言葉のカケラがふとよぎる。たしかそれは、まんぐり……まんぐり……なんとか。つまり今の大河の格好は、まんぐり……なんとか、のちっこいバージョン……いやいや、と竜児は首を振って妙な言葉を追い払う。
 自由になった両手で、竜児は浮いている大河の尻の下に枕を差し入れる。枕を両側から押して硬くし、しっかりと大河の尻を宙に支えられるようにする。
「よし、これでいい。大河」
「うん……」
 竜児の意図を知って、大河もそろそろと力を抜いて、枕に腰をゆだねてみる。薔薇の唇を結んだ大河は、ときどき、ふっ、ふっ、と鼻息を漏らす。わずかな具合の変化が大河にもたらすのは、痛みなのか、それとも。
 大河の動きに竜児も付き合って、膝を左右にいざり開いて、大河とのつながりを保つようにする。
 枕はちゃんと大河の腰を浮かし支えてくれたようだった。
「よし……」
 そうして竜児は、ようやく、上体を大河の方に倒していく。つながりの具合にあまり響かないように、腹筋と背筋に力を込めて、傾いていく。筋肉だけで支える限界が来る前に、竜児は大河の両わきに広がる淡色の髪海を手でかき分けて、髪を踏まないように手をつく。
 すべて今夜学んだことを竜児は生かす。
 ひたすらに大河を痛めないようにする。
 両手をついた自分の影に、光る大河が収まる。
 ちいさくて、綺麗で、可愛い大河。竜児の大河は、影の中でも煌く瞳を少し潤ませて、竜児を見上げて、
「おかえりなさい、竜児……」
 言って、微笑で迎えてくれるのだ。
 だから竜児は少し驚いて。
 素敵なこと言ってくれるじゃねえか、なんて思って。
 微笑みを返して、おう、ただいま、大河、なんて言って。
 ちょっとキメてやろう、なんて思ったのだ。
 なのに。
 ぼとぼとぼとっ、と音を立てて、大河の額に大粒の雨が降った。
 なんで雨がと、思う竜児の視界が急に歪む。
 可愛い大河をもっとよく見たいのに、これじゃ困るじゃねえかと思う。
 気づかせてくれたのは、優しい、優しい大河の声。
「泣かないで、竜児……」
「えっ? 俺、泣いてるのか……?」
 言われてみれば、肺が熱くて喘いでいるのだ。まるで泣いた時のように。
 泣いているのだ。俺は泣いているようだ。
 わけがわからない。
 泣く理由がない。
「あれ? 泣いてるなあ、俺。なんでだ……?」
 間抜けな声を出す。声はまだ、泣き声じゃないのに。
「泣かないで? 泣かないで? 竜児……」
 大河の声音が心配の色を帯びだす。そっちの方が竜児にはよっぽど気がかりだった。
 ぼたぼたと、まだ雨は降り止まない。たしかに、竜児は泣いていたけれど、
「おう、大河。気にするな。俺は泣いているみたいだけど平気だ」
 そんなことを言って、われながら変なことを言っているな、とすら余裕で思えるのだ。
 余裕で、だから、竜児は思い出す。
「おうそうだ、大河、俺、おまえに言わなきゃ」
 今度こそ、キメるのだ。なんか泣いているみたいだけど、俺は。
 言うんだ。
 ただいま、大河。
 これを。
 そう思って、言おうとして。
 急に喘ぎがきつくなった気がした。
「た、ただい、っは、はっ、はっ、はあっ! ああっ! うう、ううう……うぐううううう……っ!」
 雨が、どしゃぶりになった。
 もう、竜児は喘ぐか、呻くことしか出来ない。呻いて、呻いて、呻いて。
 ――大河、って、呼びたい。
 大河、って、呼ばなきゃ。
 でないとこいつ、心配しちまう。
 こいつまで、泣き出しちまう。
 こいつ泣き虫だから。
 俺は平気だって、伝えなきゃ。
 そうだ、キス。
 大河、って、優しく呼んで。
 俺はキスをするんだ。そして大河を、安心させる。
 呻きは、収まった。
 雨はまだ降っているけど、喘いでいるだけ。
「た」
 喘いだせいで、のどがへばりついていた。固唾を呑んで、のどをなんとかする。
「た、大河……」
 ようやく、そう呼んで。
 ひじを曲げて、背中も丸めて、大河に顔を近づける。
「竜児……だいじょうぶ……?」
 不思議と雨も止んで、視界が開ける。
 大河は慌てたような、心配そうなツラをして、涙目にこそなっていたけれど、大丈夫。
「よかった……間に合った。まだ泣いちゃいねえな?」
「っ!? 馬鹿っ! なに私の心配してんのよ!」
「いや、俺、ほんとに平気なんだ。なんだったんだろな……?」
 謎だよな、怪現象だな……なんてさも不思議そうに、あっけらかんと言って、竜児は大河を唖然とさせる。
「そうだ、おまえ、痛くないか? 大丈夫か?」
 さすがの大河も、これには、はああ……と盛大にため息するほかない。
「あんたさあ、いいかげんにしなさいよ? 私の心配はもういいっての。だからさ……だから、竜児……だから……」
 ちょっとは私にも、あんたのこと心配させてよ……そう、大河は言い募って、言葉のしまいには、もう、ほろほろと泣き出していた。
 大河のその言葉を聞いて、竜児には、なにかわかったような気がした。
「大河……」
「ね、竜児……もう、一人で、頑張んないでよ……私の、ために、だから、嬉しいけど……やだよ……だって、だって、ふたりで、生きていくって、決めたんだもん……っ!」
 大河が、手を自分の脚から離した。わかって、竜児は大河の頭を抱えるように抱きしめる。大河が竜児の胴に両手をまわしてしがみつく。熱い熱い額を、竜児の首に押しつける。
「大河……」
「ふ、ふううっ……ふ、ふた、ふたりで、生きていくんでしょ! 私たち、ふたりで、生きていくんでしょ! 私、ドジだし、乱暴だし、ろ、料理も、出来ないし、なんにも、なんにも出来ないけど! でも、頼ってよ! お願いだから、頼りにならないけど、頼ってよ……っ! 心配、あんたのこと、私にっ、心配、させ、てよ……っ!」
「大河……大河。大丈夫だよ、大丈夫……」
 泣いて、喘いで、それでもさっきの自分なんかよりもよっぽどちゃんと言葉を紡いで、吐き出してくる大河に、竜児がかけた言葉は、しかしいっそう大河の怒りに火をともしてしまう。
 大河の泣き声を、怒りの声音が塗りつぶす。
「だい、じょう、ぶ、なんかじゃ、ないっ! 大丈夫じゃ、ないっ! 違うのっ! 違うでしょっ!? 私の心配をするんじゃないっ!」
「ちがうちがう、大河、ちがうんだ」
「なにっ! なにが違うっていうのっ!? 違ってないっ! 適当なこと言うなこの……ばっ! ……だっ! ……あっ! えっ! ……りゅっ! ううう……なんかどれもイマイチなんだわ……」
 いきなり何の発声練習かと思いきや、大河はどうやら竜児を罵る呼び方の候補を探しては、この場ではいまいちと、順に放棄していたらしい。おいなんか最後、俺の本名までそのイマイチに入ってなかったか……? と竜児は思わずにはいられなかったのだけれど。
 これでも竜児は名うての、いや世界で一番の猛獣使い。まっすぐに、一言。
「頼ってるよ、大河」
「だから頼ってなんか……っ!? た、なに? 頼って、るの?」
 急に大河の声はあどけなく、可愛くなる。
 竜児は少し、身体を起こして。あごを引いて、暖かい大河の顔を覗き込む。一生懸命にあごを上げた大河が、また涙でぐしゃぐしゃにした大きな瞳を上目遣いにして、やはりあどけない顔をして竜児を見返している。
 ふたりの間で温められた暖かく湿った空気の中に、竜児は言葉をしっかりと送り出す。
「頼ってるよ、大河。もう、頼ってるんだよ」
「うそ……だって……っ。私……嘘つきは嫌いよ……? 竜児でも……」
「嘘じゃないよ。なあ、大河。俺、さっき、すげえ泣いただろ?」
「うん……泣いた。さっきあんた、死ぬほど泣いてた。うん。それは嘘じゃないね……」
「なんで泣いたのか、俺、わかんないって、言ってただろ?」
「うん……言ってた。それも、嘘じゃないね……」
「なんか俺、なんで泣いたのか、わかったような気がする」
「おお……それはすごいね。実に、興味深いね……じゃなくて、ほんとう? 聞かせてよ!」
「おまえが、おかえりなさいって、言ってくれたからだよ」
 ついと大河は瞳を眇める。
「えーっ? ……またまた、このスケコマシが。天然ジゴロ犬が。私を喜ばせようったってそうはいかないっての。……はっ、そうだ! あった! あったんじゃんまだ!」
「な、何がだ?」
「あんたを罵る言葉よ。このスケコマシ! ジゴロ犬! ……なによ、余裕で笑ってんじゃないよ。婚約ってのはこうもひとを変えるものかねえ」
 やだやだ、こわいこわいねえ婚姻制度は……なんて大河は言う。立っていれば、きっと外人みたいに肩をすくめて首を振っていたところか。
「……いや、悪い。まあ、俺の話を最後まで聞いてくれよ。……あの時、おまえにさ、おかえりなさいって言われてさ……おまえが言ってくれてさ、俺、すごく嬉しかったんだよ」
 大河が怒りと違う紅潮を頬にのぼらせる。それでも瞳は眇めたままで、今度は搦め手から来たよ、なんて言う。
 竜児はまた少し、ウケて笑って。
「搦め手じゃねえ、って……それでさ、俺は、おまえにしちゃあ素敵なこと言うじゃねえか、なんて思ってさ。だから俺も、ちょっとカッコつけて、おう、ただいま、って言おうとしたんだよ。そうしたら、そのかわりに……言えないかわりに、涙がどばっと出てきた」
「おお……それはすごい。ほんとに不思議……」
 頬を染めたまま、今度は大河も素直に大きな瞳をまあるくする。
「泣いてても、気分はさ、平気なんだよ。嬉しいだけで……嬉しすぎて泣いた、ってんでもなくて。そう、穏やかに、嬉しいだけでさ。でもまあ、どばどば涙が出てきて。それでまあ、平気だから、思い出して、もう一回、言おうとしたんだ。ただいま、大河、って。そしたらあれだ。本降り。どしゃぶり。また言えなくて、すげえ呻き声しか出てこねえ」
「そうだったそうだった。すっごいびっくりしたんだから! こいつとうとう狂ったか!? って」
「狂ったはひでえな……まあ、そんなだったわけだよ。しかも号泣してても、気分は平気なんだ。むしろおまえがつられて泣くことの方が心配だったりしてさ」
「奇怪千万……あとあんたいいひとすぎ」
「まったくだ……いや、奇怪千万の方な? でな、つまり……おまえが言うとおりだよ、大河。俺、頑張ってたんだよ、自分で言うのもなんだけど……さっきまで。おまえが裂けたりしないように、って。つながりたいけど、ちっこいおまえが、痛くなんかならないように、って」
 聞いて、もう、茶々入れもできず、大河はとろけてしまう。
「竜児……」
「おう、俺、おまえのその顔、大好きだぞ。たまらないよ……あれ? なんだ、どこまで話した?」
「えと……ちっこい私が、痛くならないように、って」
「そう、そうだ。ずっと、ずうっと、この夜の初めから、俺、頑張ってきたみたいなんだよ。……口説いてんじゃ、ねえぞ? ただの本当の話だぞ?」
「うん……うん……」
「うわあ、だめだ。その顔、おまえ、すげえ好きになる。あれ? ちょっとまて、なんだ、バカか俺は。悪い、どこまで話した?」
「ん……初めからね、ずっと頑張ってきた、って」
「そうそう。ほらな、すげえ頼りになるじゃん、おまえ。……あっぶね。また忘れるとこだ……でさ、まあ、自分でも気づいていないほど、頑張ってたんだろうな。気づいてたけど、それ以上に。でさ、それがさ、ようやくこうしてつながって……おまえと、つながることが出来て、さ……そうしてようやく、おまえに……ちょっと泣くぞ……心配すんなよ……いや適当に心配しろ……心配してくれ、ほどよく」
「うんっ……うんっ……」
「……おまえに、さ、帰ってきて、さ。わかるよな? 傍にいたけど、ずっとくっついていたけど、それでも、おまえに帰ってきて。帰ってきたらさ、おまえ、ちゃんと、っは、は、はあっ、はあっ、そのこと……っは……わかってたみたいに、さ、ぜんぶ、言ってもいねえのに、ぜんぶ、知っててくれたみたいに……!」
 大河は涙に抗うようにして微笑んで、しっかりと、やさしく、言ってくれるのだ。
「わかってたよ……知ってたよ……竜児……」
「そっ、そうか……っ。そうだよ、な、おまえ、ぜんぶ、わかってて、知ってて、くれて。だから、おかえりって、言って、くれて、俺、ただいまって、言おうと、して……あ、あ、あっ、あっ、あっ」
 なんだ、またかよ……言わせて、くれよ……
「あ、愛してるんだ、大河……っ!」
 大河はどうしたらよかったのだろう。
 私も愛してるって、言わなくちゃと、思って。
 
 
 でも、唇は、震えて、震えて。
 ふたりは、ようやく。
 
 
 キスを、するだけ。


(この章終わり、14章につづく)
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